雨の恵み 雨と浮世絵


とらや東京ミッドタウン店で開催されている企画展「雨を感じる」(参考:6月23日のブログ)について、今日は展示されていた浮世絵を取り上げます。

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今回、次の二作品のパネルが飾ってありました。

  1. 名所江戸百景 大はしあたけの夕立
  2. 東海道五拾三次 庄野 白雨

この二作品は6月12日まで同じ東京ミッドタウンのサントリー美術館で開催されていた「広重ビビッド 原安三郎コレクション」で展示されていました。

名所江戸百景 大はしあたけの夕立

「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」は歌川広重最晩年の代表作である〈名所江戸百景〉の一つで、安政4(1857)年に製作された大判錦絵です。

〈名所江戸百景〉は江戸市中と郊外の名所を題材としており、製作当時から大変な人気がありました。

〈名所江戸百景〉の大きな特徴とされるのが、近景をクローズアップし、遠景を小さく描き込む大胆な構図です。この大胆な構図に触発されたのか、ゴッホは「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」を模写した油彩画を残しています。

サントリー美術館で本物をみることができました。構図については既に色々な媒体で見ていたので、衝撃はそんなに大きくなかったのですが、青の色(広重ブルー)の美しさ、青の色の使い分けがとても印象的でした。また空と激しく降る雨が黒で表現されており、不安な気持ちになりました。雨を避けようと足早になる人々の焦りの気持ちが伝わって来るようでした。

東海道五拾三次 庄野 白雨

「白雨(はくう・しらさめ)」は夕立の異称の一つです。同様の名前に「驟雨(しゅうう)」がありこれらは夏の季語とされます。尚、似た言葉に「村雨(むらさめ)」がありますが、こちらは季節を問いません。

「夕立」の様子は日頃の体験から具体的にイメージできるのですが、なぜ「白い」雨と呼ばれるのか不思議でした。企画展の解説を引用すると、夏の明るい空が掻き曇って俄かに大粒の雨が降り始め、薄れた雲間から日が差すと雨脚が白く見えるから「白雨」というらしいです。

作品には、突然の激しい雨に坂道を行き来する人々の様子が描かれています。表情は一人も見えませんが手足の動き、前かがみの姿勢から非常に急いでいるのが伝わってきます。

画面の真ん中あたりを左から右に大きく斜めの線で坂が描かれていますが、この大胆な線によってスピード感が出て右下の番傘の男性が転げるように走っているように見えているのだと思います。

ところでサントリー美術館の解説を読んで吃驚したのですが、実際のところ庄野にはこのような地形の場所は存在しないそうです。広重の想像の産物なんですね。

なぜ広重がこのようなことをしたかというと、浮世絵が「限られた人のための芸術」ではなく「庶民のための商品」だったからではないでしょうか。他の絵師と競合し消費者に選んでもらわなければならなかったから、このような売れるための工夫(現代でしたら詐欺と言われそうですが)をしたのだと思います。

現在国内外でその芸術性を評価されるものが、庶民の娯楽のための大量生産品であったこと、ビジネスと芸術を両立していたことが浮世絵の凄さだと思います。

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