浮世絵の水


サントリー美術館の「原安三郎コレクション 広重ビビッド」の展示で驚いたのは、〈六十余州名所図会〉における海や川の水の多彩な表現です。

広重の観察眼

〈六十余州名所図会〉の沢山の作品に水は描かれています。しかし、水と言っても作品ごとに全く表現が異なり、作品を見ていると描かれている水がどんな色なのか、どんなスピードで動いているのか、どちらから光が差し風が吹いているのか想像がつきます。

これは広重の観察眼の素晴らしさのためだと思います。

伊藤若冲も題材に対する観察が類い稀なるものだったことが知られています。若冲は庭で数十羽の鶏を飼い、その生態をひたすら観察し続けたそうです。動植物に対する徹底した観察があってこそ、リアリティのある幻想の世界を描いたけたのだと思います。

同様に広重は、自身が行ったわけではない〈六十余州名所図会〉の場面を、題材への鋭い観察を基に描いたのではないでしょうか。先行する多くの地誌・絵本類を参考にして作品を描いたそうですが、臨場感あふれる表現は実際に目にするものをつぶさに観察した成果なのではないかと感じました。

江戸の経済と水

また、〈六十余州名所図会〉の題材を見ると、江戸時代の活発な経済活動は水運なしにはなしえなかった。日本は水運の国だったということが容易に想像できました。

近世まで唯一の大量輸送手段は水運であり、江戸の繁栄の一因は中世を通じて水上交通の要衝であったとも考えられています。

例えば〈六十余州名所図会〉の中に銚子のにぎやかな様を描いた「下総 銚子の浜 外浦」があります。銚子は浅草に利根川で通じており、水上交通の重要拠点であったことがその繁栄の要因でした。

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